群馬の農業の魅力と可能性~就農希望者へのメッセージ~
群馬県は令和2年度の野菜出荷量は全国6位です。なかでも、ほうれん草、夏秋キャベツ、夏秋なすは全国1位です。また、生乳生産量は全国5位、養豚の飼養頭数全国4位、肉牛の飼養頭数全国11位と農業が盛んな県です。
そんな群馬の農業の魅力と可能性について、群馬県農業法人協会松村会長、JAあがつま女性部星野部長、JAバンク群馬運営協議会唐澤議長による対談を企画し、群馬の農業に深く関わる3者にそれぞれの想いを語っていただきました。
司会:農林中央金庫前橋支店 支店長波多信宏
群馬県の農業の魅力
本日は群馬県の農業に熟知されているお三方をお招きし、対談の場を設けさせていただきました。テーマは「群馬の農業の魅力と可能性」です。この記事を読まれる方の中には移住を伴って群馬で就農しようと考えている方もご覧になると思います。忌憚のないご意見をお聞かせください。
波多支店長
松村会長
全国的に群馬県は高原地帯のようなイメージを持っている方が多いと思いますが、実際には群馬県は10m~1,400mの標高差があり、平坦地から高原地まで農地が広がっています。ここ数年、群馬県は夏秋なすの生産量が全国1位になっていますが、私たち平坦地の農家が努力して生産量を増やしてきた結果だと思っています。
唐澤議長
私の地元である吾妻郡は山間部の高原地域で、平坦地の平らな農地に憧れを持っていました。主に山間部では露地野菜が盛んです。真夏になるとキャベツ、レタス、白菜が最盛期を迎えます。群馬県はその標高差を活かしてなすやきゅうりなどはリレー販売ができるため、1年を通して出荷できる環境に恵まれています。群馬県は多種多様な品種を生産できる点で素晴らしい産地だと思います。
星野さんは酪農をやられてますが、女性の視点も交えてご意見をお聞かせください。
波多支店長
星野部長
群馬は全国5位の乳量を誇る畜産県でもあります。特に山間部の北軽井沢や昭和村などは畜産が盛んですね。最近の畜産は実は女性の活躍が目立ってきています。多くの作業において機械化が進み力仕事が少なくなってきていますので、機械を扱えさえすれば女性にとっても働きやすい職場になってきているということだと思います。畜産農家で働くパート女性も増えていますね。女性は動物たちに対して優しく接することが多いので、動物たちも嬉しいのではないでしょうか。
酪農の現場では機械化が進み女性が活躍する機会が増えていると。野菜の現場ではどうでしょうか。
波多支店長
松村会長
野菜においても自動収穫機などがありますが、現状は人手で収穫している農家が多いと思います。当社の近隣でもキャベツの自動収穫機を一部で見かけることが増えてきましたが、加工用のキャベツを機械で収穫していると思います。やはり個人消費向けの野菜はひとつひとつの商品を大事にするので、手切りでの収穫が主流だと思います。
唐澤議長
キャベツ等の植え付け作業は自動定植機が発達していますので機械化が進んできています。あがつま地域では収穫作業で試験的に機械も使っていますが、丘陵地などはどうしても人の手で収穫しないといけないですね。機械化という面で見ると畜産の方が進んでいると言えますね。その分設備投資費用もかかるので資金面での負担もありますが。
農業のやりがい・楽しさ
皆様が感じておられる農業のやりがいや楽しさとは、どういったところでしょうか。
波多支店長
松村会長
農業は「生命産業」と言われることがあります。命を育むことが我々の仕事で、その結果が農畜産物となるわけです。種をまくということは命を最初に地上に落とすとても重要な作業なんだと、よく社員に話しています。動物も、人も、植物も同じ生き物で同じ環境で生きていて、みんな暑い、寒い、腹減った、喉乾いたと感じる。人もその気持ちがわかるのだから、動物や植物の気持ちになって考えれば、農業は難しいことではないです。農業は命と身近に接する仕事だから、何事にもかえられない素晴らしさがあって、そこがやりがいになり生きがいにもなるんだと思います。
唐澤議長
世の中には多くの職業がありますが、やはり農業は種まきから始まり、自然の中で一生懸命育てた農産物が収穫できたときには何ともいえない喜びを感じることができますね。食料安全保障の問題もあり、食料自給率が38%と低い状況のなかで、農家は国にとっても必要不可欠な存在。農家がしっかり生活できる所得を得られるような環境を整えていくことも必要ですね。
星野部長
酪農は種付けから始まり、9か月後に仔牛が産まれ、さらにそこから乳が搾れるようになるまで2年かかります。ですから私たち酪農家が理想とする牛となるまでに3年かかるわけですね。長い時間をかけて牛たちの成長過程を近くで感じられることが、一番の酪農の楽しさややりがいなのかなと思います。
群馬の農業の可能性と課題とは
松村会長
新型コロナウイルスやウクライナ情勢により多くの産業が大変な状況となっています。農業においても肥料や飼料、農業資材の価格高騰といった苦しい状況が続いています。こんな状況の時にこそ、JAには共同購入による力を発揮してもらいたいと思いますし、農林中金には資金面等で支援をお願いしたいと思っています。私たち農業法人協会でも組織の力を併せて何かできることがないか検討しているところです。国のみどりの食料システム戦略では有機農業についての方針が示されています。農業の根幹は有畜農業で、昔は家畜の糞尿を堆肥として肥料にしていました。堆肥があることでお米や野菜が生産できます。みどりの食料システム戦略を進めていくうえでも、私は畜産を守らなければすべての農業が守れないのではないかと考えています。
唐澤議長
かつては群馬県には酪農家は1,000軒以上あったが、後継者がいないところはやめてしまって、今は500軒を下回ってしまった。
星野部長
設備の機械化を進めて、規模拡大している酪農家は働いてくれる人材を求めていると思います。家族経営だけではとても人手が足りないですね。酪農は多額の初期投資費用がかかるため独立就農は難しいと思いますので、酪農に興味ある方はぜひ雇用就農で酪農に携わってみて欲しいと思います。
お話を聞いていて感じたのは、群馬県は野菜生産も畜産も盛んな県であると。改めて群馬県は農業の可能性のある県なのだということを感じました。
波多支店長
星野部長
あがつま地域では独立就農で野菜や山野草で成功している若い新規就農者も増えてきましたね。
成功する人と、そうでない人の違いはどういったところでしょうか。
波多支店長
唐澤議長
やはり本人の努力でしょう。成功する農家は何かしらの努力をしている。やることなすことが野菜のためになっていると感じます。
星野部長
そうですね、成功している方は聞く耳を持っていると思いますし、最初に厳しい農家のもとで修行したと言っていました。
私も群馬県で独立就農した方の話を伺ったことがあるのですが、やはり農業のことだけではなくて、地域の集まりには必ず参加するようにして、地域に受け入れられるような努力もしていると話していたのが印象的でした。
波多支店長
唐澤議長
厳しくても優秀な指導者のもとで一度就農して、農業の基本を身に着けた人が成功していますね。
農業に関心のある方へのメッセージ
松村会長
農業で成功する人は情熱を持っている人だと思います。冒頭でも話しましたが、農業は命を育てる仕事です。人も植物も動物も同じです。人の気持ちがわかる人が、植物のことも動物のことも分かるのだと思います。感性豊かにいろいろな場面で農畜産物と接して欲しいと思いますし、うちの社員でもそういう人材が活躍してくれていますね。これまで百数十人の人材を見てきましたが、共通して言えることだと思います。
星野部長
群馬県は首都圏に近く立地にも恵まれていますし、こども園にも入りやすく子育てしやすいところだと思います。特に山間部の方は空きが多いので、ぜひ群馬県で雇用就農してほしいと思っています。
唐澤議長
農業に興味を持っている方のなかには、将来的に独立を目指している方もいるかと思います。まずは松村会長のような立派な指導者のところで働いてみて、農業の基礎を覚えると良いと思います。群馬県農業協同組合中央会の担い手支援部にご相談いただければ、群馬県内各地のJAを通して信頼できる指導者をご案内することもできます。遠慮なく問い合わせいただければと思います。