耕畜連携に取り組む農業者インタビュー
日本は先進国の中でも飼料自給率が低く、輸入に頼らざるを得ない中、生産地域による「耕畜連携」が注目され、国としても推進されてきています。特に群馬県は、耕種・畜産、両産業が盛んであることから「耕畜連携」が展開されやすい地域と言えます。
今回はそんな群馬県の耕畜連携を実践している2社の農業生産者へインタビューを行い、耕畜連携のきっかけやメリットを伺ってきました。
「耕畜連携」とは・・・?
日本の畜産農家では、飼料や飼料を生産するために用いる肥料は海外への依存度が高く、円安や燃料高騰の影響もあり安定供給が課題となっています。また、耕種農家が使用している肥料も同様の課題があり、地域において、耕種農家の生産した国産飼料を畜産農家が利用し、家畜排せつ物に由来する堆肥を農地に還元する取組、すなわち「耕畜連携」が注目を集めています。
「耕畜連携」をすることで、畜産・耕種農家両者にとって輸入に頼らなくて良いだけでなく、畜産農家にとって堆肥の供給先の確保が可能となり、安心安全な国産飼料を安定的に確保できること、耕種農家にとっては、堆肥の利用による肥料コストの低減だけでなく、飼料作物は人手やコストを最小限に生産ができ、輪作に活用できるため連作障害回避や耕作放棄地の活用に使える、という様々なメリットがあります。
農林水産省_耕畜連携ポータルサイト
有限会社高崎クエイルさんにインタビュー
今回インタビューをさせていただいたのは、群馬県高崎市と渋川市にてうずらの飼育、卵の生産・加工・販売を行っている有限会社高崎クエイルさんです。全国のスーパー等に並ぶ市販のうずらの卵のうち、約20%のシェアがあります。高崎クエイルさんは「幸せのたまごづくり」をモットーに高品質なうずらの卵づくりに努めている畜産農家さんです。
【企業名】有限会社高崎クエイル
【インタビュイー】常務取締役 串田 雄俊 様
【事業内容】うずらの卵の生産、加工、販売
串田常務の祖父が「貴重な卵(タンパク質源)をみんなに供給し、食べていただきたい」という想いから養鶏業を創業し、その後父の時代にニワトリからうずらへ変わってもその想いは引継ぎ、群馬県で3つの農場を展開されています。
Q1 具体的な「耕畜連携」の取組は
自分には弟がいて、養鶉業を継いだのは自分です。父からは、「兄弟で同じ事業の道は進むな」という教えがあり、弟は若いころから他の事業を検討し、2年前から稲作を近所で展開しています。その田んぼで使用する肥料はうちのうずらのフンを活用しています。また、弟の田んぼで出来たお米をうずらの飼料に活用しています。
Q2 「耕畜連携」のきっかけを教えてください
きっかけは、うずらの飼料の高騰でした。うちの農場は、卵の生産だけでなく、群馬県で唯一、雛の生産から卵の生産・加工・販売まで一環して行っています。雛を育てた結果が卵の品質を左右するため、面白い一方で全ての工程で手を抜けない難しさがあります。うずらは鶏と比べ、小さく繊細ということもあり、少しの変化が卵に影響する、という難しさもあります。
そのため、コストを抑えるために雛への餌の品質を悪くすると、ダイレクトに卵への品質に大きな影響がでます。魚粉や発酵食品の活用など様々な工夫を行い高品質の飼料を与えていましたが、燃料の高騰によるコスト高により維持が難しくなり頭を悩ませていました。そんな時、弟が稲作をはじめたので、これは良いかも、と思い活用したのがきっかけです。
一方、弟の稲作でも同じような事が起きていて、稲作に使う肥料は値段が不安定、どうにか高品質で安心安全な肥料を安定的に確保出来ないか、と困っていたのでうずらのフンを米の肥料に活用し、お互い協力しあっているという状況です。
Q3 「耕畜連携」による効果は
うずらのフンは、他動物のフンと比較し小さいですが、栄養価が高いため、少量のフンで沢山の良質なお米ができるようです。弟は今7haほどの田んぼを展開していますが、当社のフンを活用すれば、200ha以上賄えるだろうと試算しているほどです。
当社では、「う玉屋」といううずらの卵を使った商品を提供している店舗を展開しています。そこで定期的に弟の稲作の収穫体験をする「収穫祭」を実施しています。そこで収穫したお米と当社のうずらの卵を使った卵かけご飯は、今まで食べたことがないと、評判になるほどです。
Q4 今後の展望は
実は今年は米が高騰したことで、うずらへの米の給与はストップせざるを得ない状況になりました。来年以降再び当社のフンを使い、米の安定供給が実現し、結果的にうずらの餌への供給が安定すると良いですね。また、その結果「う玉屋」などを通し6次産業化を加速させ、今まで以上に沢山の人に、高品質なうずらの卵を広めていきたいと思います。
小澤牧場さんにインタビュー
もう1社インタビューさせていただいた企業は群馬県邑楽郡邑楽町にて肉牛肥育および米・麦・白菜の複合経営を行っている株式会社小澤牧場さんです。20年ほど前から有畜複合経営に取り組み「資源循環型畜産経営」の取り組みが評価され、全国農業コンクールのヤンマー賞や関東農政局国営土地改良区の営農推進功労賞など様々な賞を受賞されています。
【企業名】株式会社小澤牧場
【インタビュイー】取締役 小澤優介 様
【生産品目】肉牛・米・麦・飼料用トウモロコシ・白菜・キャベツ等
Q1 耕畜連携による「資源循環型畜産経営の取り組み」内容を教えてください
当社では約360頭の肉牛を飼育していますが、その堆肥を貴重な資源と捉え自社で栽培している米・麦・白菜・キャベツ、そして飼料用トウモロコシに活用しています。また、肉牛には米・麦の生産時に発生した藁や飼料用米、飼料用トウモロコシを活用したサイレージ(発酵飼料)を与えています。また、自社だけでなく、地域の米農家の藁も活用させていただき、地域を巻き込んだサイクルを確立しています。
Q2 「資源循環型畜産経営の取り組み」のきっかけを教えてください
肉牛の肥育は約60年前祖父の時代にスタートしました。その後、現社長の父が20代の頃アメリカに農業研修に訪れた際、大規模な畜産農家が自給飼料を取り入れていた事に感銘を受け、自社でも取り入れることになったのがきっかけです。
その後さらに本格的に導入したのは、15年ほど前に飼料用トウモロコシの生産を始めたタイミングです。元々、米・麦とキャベツ・白菜の二毛作でしたが、間に飼料用トウモロコシを入れ、2年3作の輪作体系を導入したことで、農地の有効活用のサイクルが加速しました。
Q3 「資源循環型畜産経営の取り組み」の効果を教えてください。
化学肥料だけでなく、微粉末炭を肉牛に与え産出された完熟堆肥を米・麦・白菜に利用することで、3~5割の化学肥料を削減できています。この2年3作の輪作体系を導入することで、連作障害がなくなりました。白菜後の土壌中の残窒素をトウモロコシが吸収し、後作の麦の倒伏が抑えられ品質も向上し収穫量も増え、地域の平均収量比で20%の増収を達成できています。
肉牛も同様に、飼料費を1頭当たり40%削減しています。また、お米は「邑むすび」、白菜は「邑美人」、お肉は「五穀和牛」とそれぞれ地域ブランドになる生産品を展開することができ、安心安全かつ良質で美味しいとどれもご好評いただくまでになっています。
Q4 取り組みをされる中でのご苦労はありますか?
この取り組みをすることで、一年中様々な作業をしなければならなく、常に忙しいことですかね(笑)。また、うちでは地域と連携し、相互協力をしているので、地域の農家さんにその理解を得られる関係性を構築するのは大変ではあります。
Q5 今後の展望があれば教えてください
今年から社員を採用し、規模拡大をしていく予定です。今できている「資源循環型農業」の輪の一つ一つを大きくし、もっと大きな輪を広げられるようにしたいと思っています。
今回インタビューさせていただいた2社は家族間、自社内での連携を行なっていましたが、全国では別組織の農業者間で耕畜連携に取り組む方も増えています。
皆様も耕畜連携に取り組む農業者さんをチェックしてみてはいかがでしょうか。